歴史の余白

内外の埋もれた歴史を再発見するブログ

〆天皇の誕生―日本古代史異論

天皇の誕生(連載第24回)

第六章 「昆支朝」の成立 (3)旧王家の運命 処刑と潜伏 ここで、昆支のクーデター後の旧加耶系王家の運命について考えてみよう。とはいえ、それを明確に跡づけられるような史料は何も残されていない。ただ、『書紀』の顕宗天皇紀に収められた次のような「…

天皇の誕生(連載第23回)

第六章 「昆支朝」の成立 (2)「昆支朝」成立の経緯 倭国側の事情 百済王子・昆支が477年頃、倭の畿内王権の王に即位して開いたのが「昆支朝」である。前節で見たように、昆支=応神であるならばあるいは「応神朝」と呼ぶこともできるが、「応神」はあ…

天皇の誕生(連載第22回)

第六章 「昆支朝」の成立 応神天皇=八幡神は平安時代に入っても「皇大神」「我が朝の大祖」などとして皇室から崇拝されており、『日本書紀』の叙述上も応神紀からは徐々に史実性が増すと考えられている。この応神天皇とは何者であり、どんな王朝の「大祖」…

天皇の誕生(連載第21回)

第五章 「倭の五王」の新解釈 (4)「武」の解明 「武」の独自性 『宋書』によると、興が死去した後、その弟・武が立ち、宋にとっても王朝最末期の478年(その前年の遣使記録もあるが詳細不明)に遣使してきたことが記録される。この「五王」最後を飾る…

天皇の誕生(連載第20回)

第五章 「倭の五王」の新解釈 (2)「珍」と「済」の関係 「続柄不明」問題 『宋書』によると、珍の後、443年に倭国王・済が遣使してきた。ところが、同書は前の珍と済との続柄を記していない。同書は原則として前後の続柄を明記している五王の中で、珍…

天皇の誕生(連載第19回)

第五章 「倭の五王」の新解釈5世紀に入って、中国南朝宋に連続的に遣使したことが記される「倭の五王」。讃・珍・済・興・武と中国式一字名でイニシャルのように記された五王は、果たして一連の「倭国王」であったのであろうか。(1)「讃」と「珍」の遣使…

天皇の誕生(連載第18回)

第四章 伊都勢力とイヅモ (4)出雲東部勢力の興隆 意宇王権とその由来 正史の中でいわゆる出雲として描かれたきた勢力―言わば大国主のイヅモ―は、前回まで見てきたイトモの伊都勢力とは異なり、東側の意宇[おう]と呼ばれた地域を拠点とする勢力であった…

天皇の誕生(連載第17回)

第四章 伊都勢力とイヅモ (3)イソタケルと出雲西部勢力 植民市イトモ 前回見た伊都勢力の移動ルートの中で、本章の主題にとって最も重要なのが「日本海ルート」である。 元来、伊都国の勢力圏は九州北部沿岸地域を通って、本州側の長門付近まで及んでいた…

天皇の誕生(連載第16回)

第四章 伊都勢力とイヅモ (2)伊都勢力の由来と大移動(続き) 伊都勢力の東遷・拡散 ここでイソタケルについて紹介する『書紀』の別伝第四書にもう一度立ち戻ってみると、イソタケルは持ち帰った樹木の種を筑紫から始めて大八洲国に播き殖やして、一つ残…

天皇の誕生(連載第15回)

第四章 伊都勢力とイヅモ (2)伊都勢力の由来と大移動 伊都勢力の由来〈1〉 イソタケルを紹介する『書紀』の神代編第八段別伝第四書はイソタケルについて次のような説明を与えている。すなわち― はじめ五十猛神が天降るときに、たくさんの樹木の種を持参…

天皇の誕生(連載第14回)

第四章 伊都勢力とイヅモ『記紀』神代編の神話は、天孫族と出雲族を二大基軸として展開されているが、それほどに枢要なイヅモの来歴とは何か。また有名な「出雲の国譲り」には何らかの史実が投影されているのであろうか。ここに新説の可能性を探る。(1)イ…

天皇の誕生(連載第13回)

第三章 4世紀の倭 (5)百済との修好 百済の接近 先述したように、百済は4世紀後葉には高句麗をも抑えて軍事的優位に立っていたが、広開土王陵碑文では396年(『三国史記』では395年)に高句麗に惨敗し、半島の覇権が再び高句麗に移る。百済が倭に…

天皇の誕生(連載第12回)

第三章 4世紀の倭 (4)伊都国の服属 独立から服属へ 畿内加耶系王権が朝鮮半島への玄関口を確保するためには糸島半島を支配下におさめる必要があったが、ここには古い歴史を持つ強国・伊都国が所在していた。そこで、同国を服属させることが畿内王権にと…

天皇の誕生(連載第11回)

第三章 4世紀の倭 (3)畿内加耶系王権 王権の成立 西日本各地に拡散していった加耶系渡来勢力の中でも、畿内に定住したものがやがて王権を樹立し、この畿内加耶系王権が最も有力化した。 この王権の成立時期は、ニニギに象徴化される渡来第一世代から最低…

天皇の誕生(連載第10回)

第三章 4世紀の倭 (2)加耶人の世紀 加耶人の集団渡来 前回見た邪馬台国の解体は、朝鮮半島からの相当な規模の渡来の波が発生するチャンスとなった。その渡来の中心となったと考えられるのが、再三述べてきた加耶地方からの移民集団である。 先述したよう…

天皇の誕生(連載第9回)

第三章 4世紀の倭 4世紀の倭の情報は中国の史書から消え、「謎の4世紀」とも言われる。しかし、朝鮮史料の『三国史記』や『広開土王陵碑文』などから、この時期の倭が朝鮮三国と活発な外交的・軍事的駆け引きを繰り広げる様子が窺える。この「倭」は果た…

天皇の誕生(連載第8回)

第二章 「神武東征」の新解釈 (5)「神武天皇」の分割 東征勢力の首領 ここで、「神武天皇」とは何者であるのかという初めの問いに戻ってみよう。 『記紀』は「神武天皇」を東征からヤマト征服、王朝樹立までの一連のプロセスの主人公として統一し、英雄物…

天皇の誕生(連載第7回)

第二章 「神武東征」の新解釈 (4)二系統の天孫族 「神武東征」の経路 神武軍団の出発地点について、正史・通説の「宮崎日向説」に立つと、かれらは宮崎の日向を出てまず九州東岸を舟で北上し、宇佐を経て筑紫国の岡水門[おかのみなと](遠賀川河口付近…

天皇の誕生(連載第6回)

第二章 「神武東征」の新解釈 (3)天孫族の渡来 渡来の時期 前回見たように、天孫降臨神話に形象化された加耶系集団の渡来時期はいつごろのことなのであろうか。この問いに正確な解答を出すのは難しい。 一つのかすかな手がかりは、金官加耶国開祖・金首露…

天皇の誕生(連載第5回)

第二章 「神武東征」の新解釈 (2)天孫族の出自 降臨神話の真相 天孫ニニギは高天原から「筑紫の日向」に天降った。そして、その曾孫に当たる神武はそこから畿内に東征する━。 こう推定してみたいのだが、それにしても天孫が文字どおりに天から降ったので…

天皇の誕生(連載第4回)

第二章 「神武東征」の新解釈 南九州の日向から、軍団を率いて畿内へ侵入し、大和朝廷を建てたとされる「天神」の子・初代神武天皇の東征は単なる神話なのか、それともそこには何らかの史実が投影されているのであろうか。 (1)「神武東征」の出発地 宮崎…

天皇の誕生(連載第3回)

第一章 三人の「神冠天皇」 (3)応神天皇と八幡宮 皇大神としての八幡神 応神天皇が新王朝開祖であるらしいことは、宗教の面からも確認することができる。まさに応神天皇を祭神として祀っている八幡宮の存在である。宇佐八幡宮(宇佐神宮)を総本社とする…

天皇の誕生(連載第2回)

第一章 三人の「神冠天皇」8世紀に、漢学者・漢詩人の淡海三船[おうみのみふね]が撰じた歴代天皇の漢風諡号の中で、「神」を冠せられたのは初代神武・第10代崇神、第15代応神の三天皇だけである。このことは、8世紀の時点でも、三天皇が特別に神聖視…

天皇の誕生(連載第1回)

プロローグ 「天皇の誕生」というテーマは、正史・通説の立場からすれば、さしあたりは『古事記』(以下、『記』)及び『日本書紀』(以下、『書紀』)を参照のこと、と言うだけで済んでしまう。果たしてそれによると━ 天皇の祖は、皇祖神・天照大神[アマテ…