歴史の余白

内外の埋もれた歴史を再発見するブログ

もう一つの中国史(連載第22回)

七 中世の激動と周辺民族の動静 (1)チワン族の自立と帰順 宋及び宋が金の侵攻により南遷した南宋の時代からモンゴル系の元を経て漢民族が再び支配権を取り戻す明初期までの中国中世は激動の時代であったが、この時代、周辺民族もまた様々な動きを見せてい…

ノルマンディー地方史話(連載第20回)

第20話 アレクシス・ド・トクヴィル 18世紀のフランス革命が収束した後、19世紀のフランスはナポレオン帝政の崩壊後、パリ・コミューンに至るまで革命が連続する「革命の世紀」となるが、ノルマンディーはそうしたパリを中心とした革命の喧騒からは切…

近世天皇列伝(連載第3回)

二 後水尾天皇(1596年‐1680年) 後水尾天皇は先代後陽成天皇の第三皇子にして、江戸時代では二人目の天皇である。ただ、後水尾はそもそもの即位の経緯に関して父と確執があった。 父の後陽成はどういうわけか後継者として自身の第一皇子・良仁[か…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第9回)

第8話 十字軍国家とアッコ包囲戦 歴史上、「アッコ包囲戦」と呼ばれる戦いは、中世から近世にかけて9回も起きているが、そのうちの6回がパレスティナ十字軍国家の時代のものである。アッコは現在はイスラエル北部の西ガリラヤ地方の港湾都市であり、歴史…

もう一つの中国史(連載第21回)

六 モンゴル民族の覇権 (3)元朝の撤退 巨大帝国化した元朝は、全盛期を築いた世祖クビライ・カーンが1294年に没すると、斜陽化の道をたどる。元朝では明確な皇位継承制度が確立されておらず、後継争いが生じやすいことが致命的であった。 クビライを…

欧州超小国史(連載第11回)

Ⅱ アンドラ共同公国 (1)共同公国の始まり フランスとスペインに挟まれたピレネー山脈中の山岳国家アンドラ公国は現在、フランス共和国大統領とスペインはカタルーニャ州のカトリック教会ウルヘル司教区を管轄するウルヘル司教が共同公を務める世界でも類…

もう一つの中国史(連載第20回)

六 モンゴル民族の覇権 (2)パクス・モンゴリカ 中国大陸を征服したモンゴル族が樹立した元朝は、それまでの中原の制覇を目指した歴代王朝とは異なり、東西に及ぶ遠征活動を通じて、単なる中国王朝にとどまらないユーラシア大陸横断的な、言わばユーラシア…

松平徳川女人列伝(連載第13回)

十九 お美代の方(1797年‐1872年) 子沢山で知られる第11代将軍・徳川家斉には正室・広大院のほかに15人の側室がいたとされ、次代の将軍・家慶の生母も側室・お楽の方(香琳院)であったが、詳細な事績が記録されている側室となると、お美代の方…

近世天皇列伝(連載第2回)

一 後陽成天皇(1571年‐1616年) 後陽成天皇は、関ヶ原の戦いを経て、徳川家康を征夷大将軍に任じて幕府の創設を許したことで、まさに江戸時代最初の天皇となった人物である。その生涯は、戦国・安土桃山時代から江戸時代最初期にかかる激動期にまた…

近世天皇列伝(連載第1回)

序説 本連載のテーマとなる近世天皇とは、江戸時代に在位した天皇を指す。と言っても、徳川将軍とは異なり、近世天皇の始まりと終わりには二つの時代にまたがるずれが生じるが、在位期間が安土桃山時代から江戸時代初期にかかる始まりの後陽成天皇は含め、即…

もう一つの中国史(連載第19回)

六 モンゴル民族の覇権 (1)元朝の独異性 クビライ・カーンの頃に最大化したモンゴル帝国は中央アジアを越え、ロシア方面にも拡張されていたから、最盛期のモンゴル帝国は本来中国史を超えたユーラシア史に属するが、ここでは行論上中国史上のモンゴル帝国…

もう一つの中国史(連載第18回)

五 遊牧民族の時代Ⅱ (3)モンゴル民族の席巻 宋、遼、西夏の鼎立体制は遼が新興の金に滅ぼされ、次いで宋も金によって華北を追われ、南遷したことで、華北の金と華南の宋(南宋)という一種の南北朝体制に変化した。この体制に終止符を打ったのは、モンゴ…

欧州超小国史(連載第10回)

Ⅰ サン・マリーノ至清共和国 (9)第二次世界大戦後の歩み 地政学上四囲されたイタリアとの係わりが強く、第二次世界大戦では世界最小の戦場となったサン・マリーノであったが、戦後のサン・マリーノは、イタリアとは正反対の歩みを見せることとなった。1…

File:日本の女性君主たち(連載最終回)

Ⅳ 近代の皇后「陛下」たち 3:香淳皇后(1903年‐2000年) (ア)立后の経緯大正十三年(1924年)、大正天皇の健康問題からすでに摂政に就任していた皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)の妃となり、同十五年(1926年)、昭和天皇の即位に伴い、…

File:日本の女性君主たち(連載第13回)

Ⅳ 近代の皇后「陛下」たち 2:貞明皇后(1884年‐1951年) (ア)立后の経緯明治天皇が当初、後に大正天皇となる皇太子嘉仁[よしひと]親王の妃として宮家の女性を望んでいたことから、伏見宮貞愛[さだなる]親王の長女・禎子[さちこ]が内定して…

file:日本の女性君主たち(連載第12回)

Ⅳ 近代の皇后「陛下」たち 明治維新後、初の近代憲法とみなされる大日本帝国憲法が制定されるのと同時に、皇位継承等の皇室に関する重要事項を明文化した皇室典範も憲法と同格的な最高法規として制定され、明治二十二年(1889年)に同時公布された。 そ…

File:日本の女性君主たち(連載第11回)

Ⅲ 近世の二人の女性天皇 2:後桜町天皇(1740年‐1813年) (ア)登位の経緯父・桜町天皇の譲位を受けて即位した異母弟・桃園天皇が22歳で夭折したことを受け、桃園の第一皇子・英仁親王が5歳と幼少であったことから、英仁の将来的な即位を前提に…

欧州超小国史(連載第9回)

Ⅰ サン・マリーノ至清共和国 (8)第二次世界大戦とサン・マリーノの戦場化 戦間期、イタリアの影響からサン・マリーノにも及んだファシストの政府は、第二次大戦が開始されると、興味深いことに、イタリア軍に兵力を提供せず、中立宣言を発したため、緒戦…

File:日本の女性君主たち(連載第10回)

Ⅲ 近世の二人の女性天皇 奈良時代の称徳天皇以来、800年以上にわたり、女性天皇は途絶え、武家支配に移行した鎌倉時代以降も復活することなく、女子の皇位継承を認めないことが事実上慣習法として確立したかに思われた。 しかし、江戸時代に入り、突如、…

アフガニスタン形成史(連載第4回)

三 カーブルの都市史 ゾロアスター都市からヘレニズム都市へ 今日のアフガニスタンの形成に決定的な役割を果たした三大都市のうちカーブルは、現在でも首都として存続する最も基幹的な都市である。カーブルはヒンドゥークシュ山脈南部の標高約1800メート…

File:日本の女性君主たち(連載第9回)

Ⅱ 上代の女性君主たち 二 女帝の世紀:奈良時代 4:孝謙天皇(718年‐770年) (ア)登位の経緯天平十年(738年)に史上初かつ現在のところ唯一の女性皇太子として立太子し、父・聖武天皇の後継者に指名されていた中、天平勝宝元年(749年)に聖…

File:日本の女性君主たち(連載第8回)

Ⅱ 上代の女性君主たち 二 女帝の世紀:奈良時代 3:光明皇后(701年‐760年) (ア)立后の経緯長屋王の変の後、聖武天皇が即位して5年後の天平元年(729年)に、詔勅及び宣命という異例の二段階の儀式を経て、立后された。その背景として、長屋王…

ノルマンディー地方史話(連載第19回)

第19話 ノルマン・シュワネリー ノルマンディー地方の保守性を示す近世の重要な出来事として、フランス革命に対する反革命戦争の一つであったシュワネリーの中心地となったことがある。シュワネリーとは、半伝承的な王党派・反革命派戦士であるジャン・コ…

クルド人の軌跡(連載第7回)

三 クルド人の分裂と離散 アイユーブ朝残存勢力 13世紀半ばにアイユーブ朝が衰亡した後、クルド人は現在まで続く分裂と離散の長い時代に入る。もっとも、アイユーブ朝といえども、それは王家がクルド系であったというにとどまり、本来のクルド人故地ではな…

File:日本の女性君主たち(連載第7回)

Ⅱ 上代の女性君主たち 二 女帝の世紀:奈良時代 平城京遷都の和銅三年(710年)から平安京遷都の延暦十三年(794年)までの84年にわたり、西暦では8世紀代の大半を占めたいわゆる奈良時代は、のべ四代の女性天皇や天皇に準じる権力を持った実権皇后…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第8回)

第7話 コンラート1世暗殺事件 パレスティナ十字軍王国女王イザベル1世の二番目の婿モンフェラート侯コンラート1世が共同国王に即位する前に暗殺された事件は、流血沙汰が珍しくなかった中世における未解決殺人事件の一つである。 事件の外形的な経緯は、…

File:日本の女性君主たち(連載第6回)

Ⅱ 上代の女性君主たち ここで上代とは、壬申の乱を境とする飛鳥時代後期から奈良時代までを指すものとする。この時代は、日本の律令政治が整備され、天皇を君主に戴く王朝政治の基盤が築かれた重要な時代であるが、この時代には持統天皇を筆頭に多くの女性天…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第7回)

第6話 政略婚の最果て フランス本国では、女子の王位継承権を否定するフランク族の古法サリカ法が援用され、女王を輩出することは王制史上一度もなかったが、本国では地位が低かった十字軍騎士の子孫が王家となったパレスティナ十字軍王国では円滑な王位継…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第6回)

第5話 エルサレム陥落へ ハンセン病を負いながらも、英明で気概もあったボードゥアン4世が早世すると、その後継に定められ、すでに共同国王の座にあった姉シビーユの子で甥に当たるボードゥアン5世が単独統治を開始したが、10歳に満たない少年のうえ、…

File:日本の女性君主たち(連載第5回)

Ⅰ 古代の女性君主たち 三 飛鳥時代の二人の女性オオキミ 2:皇極天皇(594年‐661年) (ア)登位の経緯推古女帝を継いだ男帝の舒明天皇の崩御後、舒明の皇后から直接に即位した。蘇我氏の傀儡として実権を持たなかった舒明同様、蘇我氏によって傀儡と…