歴史の余白

内外の埋もれた歴史を再発見するブログ

〆ユダヤ人の誕生

ユダヤ人の誕生(連載最終回)

Ⅵ ユダヤ人の確立 (18)「パレスチナ人」の分岐 古代ユダヤの亡国後、相当数のユダヤ人が海外に離散し、ディアスポラとなったが、ローマ帝国はかつてのアッシリア帝国のように強制移住政策を採らなかったから―ただし、相当数のユダヤ人捕虜を奴隷として売…

ユダヤ人の誕生(連載第18回)

Ⅵ ユダヤ人の確立 (17)キリスト教徒の分離 キリスト教創始者ナザレのイエスが生まれたのは、ヘロデ大王末年の紀元前4年とされる。新約によれば、ヘロデ大王は新たな王がベツレヘムで生誕したとの情報を得て、ベツレヘムの2歳以下の男児全員の殺害を命…

ユダヤ人の誕生(連載第17回)

Ⅵ ユダヤ人の確立 (16)同系民族の征服 ユダヤ人という民族概念は血統的なものではなく、宗教的なもの、すなわち「ユダヤ人=ユダヤ教徒」である。こうした宗教的民族概念が形成されたのは早くともハスモン朝全盛期と見られ、それ以前は血統的民族概念と…

ユダヤ人の誕生(連載第16回)

Ⅴ ローマ支配から亡国まで (15)抵抗運動と挫折 前回述べたように、一時的に実質上ヘロデ朝を復活させたアグリッパ1世が44年に死去した後、そのローマ育ちの息子アグリッパ2世はもはやローマ帝国の完全な傀儡にすぎなかった。第一次ユダヤ戦争はそう…

ユダヤ人の誕生(連載第15回)

Ⅴ ローマ支配から亡国まで (14)ヘロデ朝の終焉と亡国 ヘロデ大王は30年以上独裁者として君臨した後、紀元前4年に没したが、彼が創始した王朝(ヘロデ朝)は、初代ヘロデ大王時代を全盛とし、大王の死に際しておそらくは宗主国ローマの意向を呈した大…

ユダヤ人の誕生(連載14回)

Ⅴ ローマ支配から亡国まで (13)最初のユダヤ人・ヘロデ大王 ハスモン朝を倒したのは、ローマ帝国と結んだヘロデであった。彼は元来ユダヤ民族ではなく、イドマヤ人の出自であった。聖書上、イドマヤ人はユダヤ民族始祖ヤコブの兄エサウを祖とする兄弟民…

ユダヤ人の誕生(連載第13回)

Ⅳ 捕囚と帰還・再興 (12)独立運動とハスモン朝 長いセレウコス朝シリア支配の時代、同朝第8代君主アンティオコス4世がエルサレム神殿で異教の祭儀を執り行うという冒涜行為を犯したとされることを契機に、前167年、モディンという小村の祭司マタテ…

ユダヤ人の誕生(連載第12回)

Ⅳ 捕囚と帰還・再興 (11)バビロン捕囚と帰還 南王国滅亡後のバビロン捕囚はユダヤ民族の滅亡をもたらさず、それどころかかえって民族的意識の高揚を結果することとなった。南王国の支配層はユダ部族であったから、ユダヤ民族とは厳密に言えばこの南王国…

ユダヤ人の誕生(連載第11回)

Ⅳ 捕囚と帰還・再興 (10)二度の捕囚 ユダヤ民族は、その歴史の中で二度にわたり外国によって集団的な捕囚の身とされる数奇な経験を持っている。その最初は北王国滅亡後の「アッシリア捕囚」(紀元前8世紀代)であった。 この時は南王国の一部住民と北王…

ユダヤ人の誕生(連載第10回)

Ⅲ 入植・王国時代 (9)王国の分裂 ダヴィデ、ソロモン父子王の時代に栄華を誇ったとされる統一イスラエル王国はソロモンの没後、南北に分裂する。そのうち南王国(ユダ王国)はほぼ代々ダヴィデの子孫が王位を継承していくのに対し、北王国(北イスラエル…

ユダヤ人の誕生(連載第9回)

Ⅲ 入植・王国時代 (8)王国の形成 中央山地勢力によるカナン平野部再移入が一段落すると、入植地を保持するする目的から、統一王国樹立の機運が生じた。旧約によれば、イスラエル最初の王はサウルであった。彼は、最後の士師サムエルが神の啓示によって選…

ユダヤ人の誕生(連載第8回)

Ⅲ 入植・王国時代 (7)平野部再移住 前回、旧約の「出エジプト」とは本来ほぼ今日のパレスチナに相当するカナンの先住民であった原カナン人の一部が、エジプトの支配を逃れて山地へ移住した事実を壮大な物語化したものであろうと論じた。 旧約によれば、ユ…

ユダヤ人の誕生(連載第7回)

Ⅱ 「出エジプト」の真相 (6)中央山地への移住 前回、旧約の出エジプト物語はエジプト新王国によるヒクソスの駆逐の史実と重なる部分は認められるものの、それだけでは説明し切れず、別の史実の投影も想定しなければならないと述べた。 この点で、エジプト…

ユダヤ人の誕生(連載第6回)

Ⅱ 「出エジプト」の真相 (5)ヒクソスの駆逐 旧約の出エジプトはそれだけで一冊の書にまとめられた壮大な物語である。それによると、ヤコブ一族のエジプト定着後、ユダヤ民族はエジプトで地歩を築いていたが、ユダヤ民族が増えすぎたことから、ファラオは…

ユダヤ人の誕生(連載第5回)

Ⅱ 「出エジプト」の真相 (4)「入エジプト」の経緯 旧約で最重要のトピックと言えば、「出エジプト」である。この物語は聖書を超えて、ユダヤ民族にとってのバックボーンでもある。カナンの地を本貫としたユダヤ民族にとって「出エジプト」は当然「入エジ…

ユダヤ人の誕生(連載第4回)

Ⅰ ユダヤ民族の原郷 (3)聖書カナン人と原カナン人 前回、ユダヤ民族は「カルデアのウル」から約束の地カナンへ移住してきたのではなく、初めからカナンに居住していたと述べた。この考えによれば、ユダヤ民族にとってカナンは神から約束された異郷ではな…

ユダヤ人の誕生(連載第3回)

Ⅰ ユダヤ民族の原郷 (2)アブラハムの出身地 旧約では、民族始祖アブラハムの出身地を「カルデアのウル」とする。このウルとは、三代にわたってシュメール人の都市王国が栄えたメソポタミア文明圏の由緒ある故地ウルと同一視されている。 アブラハム(旧名…

ユダヤ人の誕生(連載第2回)

Ⅰ ユダヤ民族の原郷 (1)ユダヤ人とユダヤ民族 「ユダヤ人」という語は、複合的な用語である。そこには、宗教としてのユダヤ教を信じ実践する者、要するに「ユダヤ教徒」という含意とともに、ユダヤ教を創出した民族としてのユダヤ人という含意が二重に込…

ユダヤ人の誕生(連載第1回)

序論 民族としてのユダヤ人は、おそらく日本人と並んでその出自が神話に満ちた民族である。それは日本人の出自が『記紀』に見える日本神話に依拠していることと似て、ユダヤ人の出自がユダヤ教聖典である『旧約聖書』(以下「旧約」と略す)に依拠しているこ…