歴史の余白

内外の埋もれた歴史を再発見するブログ

2024-01-01から1年間の記事一覧

File:日本の女性君主たち(連載第6回)

Ⅱ 上代の女性君主たち ここで上代とは、壬申の乱を境とする飛鳥時代後期から奈良時代までを指すものとする。この時代は、日本の律令政治が整備され、天皇を君主に戴く王朝政治の基盤が築かれた重要な時代であるが、この時代には持統天皇を筆頭に多くの女性天…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第7回)

第6話 政略婚の最果て フランス本国では、女子の王位継承権を否定するフランク族の古法サリカ法が援用され、女王を輩出することは王制史上一度もなかったが、本国では地位が低かった十字軍騎士の子孫が王家となったパレスティナ十字軍王国では円滑な王位継…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第6回)

第5話 エルサレム陥落へ ハンセン病を負いながらも、英明で気概もあったボードゥアン4世が早世すると、その後継に定められ、すでに共同国王の座にあった姉シビーユの子で甥に当たるボードゥアン5世が単独統治を開始したが、10歳に満たない少年のうえ、…

File:日本の女性君主たち(連載第5回)

Ⅰ 古代の女性君主たち 三 飛鳥時代の二人の女性オオキミ 2:皇極天皇(594年‐661年) (ア)登位の経緯推古女帝を継いだ男帝の舒明天皇の崩御後、舒明の皇后から直接に即位した。蘇我氏の傀儡として実権を持たなかった舒明同様、蘇我氏によって傀儡と…

白川郷内ケ島氏興亡物語(連載第4回)

四 消えた帰雲城 白川郷内ケ島氏が居城としたのは、帰雲[かえりぐも]城であった。この詩的な名称の居城は白川の帰雲山(標高約1600メートル)付近に所在したと見られる山城であったが、天正十三年(1586年)の天正地震による山体崩壊により、内ケ…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第5回)

第4話 「仮面」の英主ボードゥアン4世 その200年弱の歴史の中で、あまり有能な王を輩出することのなかったパレスティナ十字軍王国であったが、例外的に称賛されているのは、ボードゥアン4世である。4世は、女王メリザンドの孫に当たる。 父のアモーリ…

file:日本の女性君主たち(連載第4回)

Ⅰ 古代の女性君主たち 三 飛鳥時代の二人の女性オオキミ 飛鳥時代は通常、6世紀末から奈良時代が開始される8世紀初頭までを指す。この時代は蘇我氏の専横を排したいわゆる大化の改新を境に前期と後期に分けることもできるが、ここでは天皇称号が確立され、…

もう一つの中国史(連載第17回)

五 遊牧民族の時代Ⅱ (2)遼と西夏 宋の成立により漢民族が再び中原の覇権を奪回したように見えたが、宋の覇権は初めからカッコ付きのものであった。というのも、北方には遼が睨みを利かせ、やがて西方にもチベット系タングート族の建てた西夏が台頭してき…

もう一つの中国史(連載第16回)

五 遊牧民族の時代Ⅱ (1)突厥沙陀部の短い覇 鮮卑系の唐が安史の乱以降衰退し、黄巣の乱の渦中で907年に滅亡すると、中国は再び五代十国と呼ばれる内戦状態に突入する。五代最初の後梁は漢民族系だが、黄巣反乱軍武将から寝返った朱全忠が創始した同国…

File:日本の女性君主たち(連載第3回)

Ⅰ 古代の女性君主たち 二 古墳時代の女性君主たち 邪馬台国が史料上から姿を消した後、日本は各地で地方王権が割拠し、大型墳丘墓が盛んに築造される古墳時代に入るが、この時代の首長級墳墓からはしばしば女性の人骨が出土している。その割合は、3割から5…

File:日本の女性君主たち(連載第2回)

Ⅰ 古代の女性君主たち ここで古代とは、日本列島にクニが形成され始めた弥生時代後期から古墳時代を経て飛鳥時代前期までを包括する。この間、内外史料上には5人の女性君主が現れるが、その最初は中国史料に現れる邪馬台国の二人の女王、中でもヒミコ(卑弥…

File:日本の女性君主たち(連載第1回)

序 現在の日本では、女性の天皇は、たとえ男性皇位継承者の断絶という例外状況であれ、法律上認められていないが、知られているように、近世(江戸時代)までは認められていた。これは明治維新後に制定された皇室典範が女性天皇を禁じ、これが憲法に両性の平…

シチリアとマルタ―言語の交差点(連載第12回)

十一 マルタ騎士団の統治と二重言語化 中東のパレスティナ十字軍王国で発祥し、王国の主要防衛力となっていた聖ヨハネ騎士団は王国滅亡後、キプロス島を経てロードス島へ移転したが、1522年、地中海の覇権を狙うオスマン帝国の侵攻を受けてロードス島も…

パレスティナ十字軍王国史話(連載第4回)

第3話 十字軍王国と騎士団 パレスティナ十字軍王国の王家を頂点とする支配層はフランス人騎士であったが、その人口はごく少数であった。というのも、十字軍戦士の大半は戦争終結後、気候的にも合わない中東の地を離れて本国へ帰還していき、少数の戦士とそ…

弾左衛門矢野氏列記(連載最終回)

九 (続)矢野弾左衛門集保=弾直樹 最後の弾左衛門集保=弾直樹は幕末・明治中期まで生きたことで歴代では最も事績が明らかで、肖像写真が残されている唯一の弾左衛門であるという点においても、最後の将軍・徳川慶喜に重なるところがある。 前回も触れたよ…

弾左衛門矢野氏列記(連載第9回)

九 矢野弾左衛門集保=弾直樹(1823年‐1889年) 前回見たように、第11代(または第12代)弾左衛門集司が幕府の命により事実上の辞職に追い込まれ、復職運動も不首尾に終わると、次の弾左衛門を選定する必要が生じた。周司に実子なく、摂津の寺田…

弾左衛門矢野氏列記(連載第8回)

八 矢野弾左衛門集司=弾譲(1815年‐1872年) 第10代(または第11代)弾左衛門集民が実子なく夭折すると、弾左衛門は再び家の継承危機にさらされる。わざわざ広島から養子で迎えた当主の急死であったから、事は深刻であった。文政十一年(182…

弾左衛門矢野氏列記(連載第7回)

七 矢野弾左衛門集林(1780年‐1804年)/集和(1792年‐1821年)/集民(1808年‐1828年) 第7代(または第8代)弾左衛門集囿が13年に及ぶ隠居後、天明八年(1788年)に死去した跡を継いだ第6代(または第7代)の集益は、父…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第18回)

Ⅴ ユダヤ民族の抵抗と離散 (16)抵抗運動と挫折・離散 ヘロデ朝は非ユダヤ人ながらユダヤ教徒=ユダヤ人であったヘロデ王がローマに服属しつつ、ユダヤの自治をどうにか維持するという微妙な均衡の上に成り立つ一代限りの専制王権であり、ユダヤ人の反ロ…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第16回)

Ⅴ ユダヤ民族の抵抗と離散 (15)ヘロデ朝の終焉と亡国 ヘロデ大王は30年以上独裁者として君臨した後、紀元前4年に没したが、彼が創始した王朝(ヘロデ朝)は、初代ヘロデ大王時代を全盛とし、大王の死に際しておそらくは宗主国ローマの意向を呈した大…

ユダや人の誕生[新版](連載第15回)

Ⅴ ユダヤ民族の抵抗と離散 (14)最初のユダヤ教徒ユダヤ人・ヘロデ ハスモン朝を倒したのは、ローマ帝国と結んだヘロデであった。彼は元来ユダヤ民族ではなく、イドマヤ人の出自であった。聖書上、イドマヤ人はユダヤ民族始祖ヤコブの兄エサウを祖とする…

シチリアとマルタ―言語の交差点(連載第11回)

十 スペイン支配とシチリア語の劣勢 シチリアでは1282年、当時の支配者アンジュー家の兵士による女性暴行事件に端を発した反仏暴動・シチリアの晩祷事件に介入し、シチリアに侵攻したスペインのアラゴン連合王国の支配下に移ることになる。 当時のアラゴ…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第14回)

Ⅳ 選民ユダヤ人の誕生 (13)独立運動とハスモン朝の成立 長いセレウコス朝シリア支配の時代、同朝第8代君主アンティオコス4世がエルサレム神殿で異教の祭儀を執り行うという冒涜行為を犯したとされることを契機に、前167年、モディンという小村の祭…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第13回)

Ⅳ 選民ユダヤ人の誕生 (12)バビロン捕囚と帰還 南王国滅亡後のバビロン捕囚はイスラエル民族の滅亡をもたらさず、それどころかかえって民族的意識の高揚を結果することとなった。バビロン捕囚で高揚した民族意識の下、タナハの原初的な基礎資料の作成も…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第12回)

Ⅳ 選民ユダヤ人の誕生 (11)二度の捕囚 イスラエル人は、その歴史の中で二度にわたり外国によって集団的な捕囚の身とされる数奇な経験を持っている。その最初は北王国滅亡後の「アッシリア捕囚」(紀元前8世紀代)であった。 この時は南王国の一部住民と…

もう一つの中国史(連載第15回)

四 遊牧民族の時代Ⅰ (3)北周から隋唐へ 華北における鮮卑族の覇権は、拓跋部からさらに宇文部へと引き継がれていく。実際のところ、宇文部は本来匈奴系であったが、後漢末に鮮卑族に帰属し、以後は鮮卑族の一部族として存続していく。 鮮卑系国家としては…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第11回)

Ⅲ 入植民イスラエル人の台頭 (10)王国の分裂 ダヴィデ、ソロモン父子王の時代に栄華を誇ったとされる統一イスラエル王国はソロモンの没後、南北に分裂する。そのうち南王国(ユダ王国)はほぼ代々ダヴィデの子孫が王位を継承していくのに対し、北王国(…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第10回)

Ⅲ 入植民イスラエル人の台頭 (9)王国の形成 中央山地勢力によるカナン平野部再移入が一段落すると、入植地を保持する目的から、統一王国樹立の機運が生じた。タナハによれば、イスラエル最初の王はサウルである。彼は、最後の士師サムエルが神の啓示によ…

ユダヤ人の誕生[新版](連載第9回)

Ⅲ 入植民イスラエル人の台頭 (8)平野部再移住 前回、タナハの「出エジプト」とはカナンの先住民であった原カナン人の一部が、エジプトの支配を逃れて山地へ移住した事実を壮大な物語化したものであろうと論じた。 タナハによれば、ユダヤ民族はモーセに率…

矢野弾左衛門列記(連載第6回)

六 矢野弾左衛門集囿(1722年‐1788年)/集益(1746年‐1790年) 第5代(または第6代)弾左衛門集村は39年間在職した後、たびたび奉行所に願い出て息子の織右衛門に職を譲り、隠居することを許された。彼が生前の隠居にこだわったのは、…